2007年12月14日 判決に関する報告

判決主文は「原告らの請求をいずれも棄却する」。名誉毀損は認められませんでした。

大変残念な結果です。
判決は、石原都知事の発言は、真実ではない、あるいはフランス語に何らかの形で携わる者に対して、不快感を与えることは容易に想像できるし、配慮を欠いた発言であることは認めました。しかし、それらの発言は、原告ら特定人に向けられたものではないとして、名誉毀損を認めませんでした。
敗訴という結果は残念ですが、少なくとも、「発言内容は正しいので、名誉毀損にならない」というのではなく、発言の誤りなどは認めています。
判決は、名誉毀損を認めなかった理由は、それぞれの発言内容毎に、詳細に認定していますので、判決文をよく読んでご理解ください。要点は、おおよそ次のとおりです。

1 「フランス語は数を勘定できない言葉」「国際語として失格していくのはむべなるかな」という発言について
 ・この発言は、被告の意見ないし論評ではなく「事実の適示」であり、被告が、それを「真実である」とか「真実であると信じた」相当な理由はなかった。
 ・このフランス語に関する発言は、真実ではない。
 ・しかし、これはフランス語に関するものであって、特定の個人に対するものではなく、また、これが真実でないことは明らかである。したがって、これによって原告らその他の特定の人の社会的評価を低下することにはならず、名誉毀損とはならない。
 ・この「事実の適示」は、フランス語に対する否定的印象を一般に与え、しかも真実ではないので、フランス語に何らかの形で携わる者に対して、不快感を与えることは容易に想像できるし、配慮を欠いた発言である。しかしそれだけでは、直ちに関係者の名誉感情を侵害するとはいえない。
 ・この発言が都知事によりされたことで、フランス語を学ぼうとする者に対し、フランス語に否定的な印象を与え、その学習意欲をそぐことも懸念されないではない。しかし、発言内容は真実ではなく、また実際に学習者が減ったという証拠はないので、業務妨害は認められない。

2 「そういうものにしがみついている手合いが結局反対のための反対をして」「笑止千万な。」という「発言について
 ・フランス語にしがみついている都立大学の教員が首都大学東京の設立構想に反対のための反対をしている」という事実の適示と、それに対する被告石原の否定的評価を交えた意見表明である。
 ・原告西川と菅野は都立大学の教員であったが、この発言内容は、具体性を欠く上、対立する意見を表明する当事者同士が相手方を否定的表現を用いて批判することは通常見られるところで、この発言はそのような批判の範囲を逸脱するものとまではいえない。
 ・「笑止千万」は、否定的評価をより強める役割を果たしているが、2人の社会的評価を低下されるものとはいえない。
 ・よって、名誉毀損にならないし、名誉感情の侵害があったとすることもできない。


3 反対する教員は「退嬰的である」との発言や、都立大学のフランス語の受講生の数に関する発言について
 ・「その表現は反対者に対する批判としていささか過剰といえる」「誤った受講者数についての認識を一般人に与える可能性はあるが、この発言は都立大学のフランス語講座に対して向けられるものであり、その教員に対して向けられるものではない」「フランス語教員を個別に特定したり、原告に具体的に言及するものではない」などの理由で、いずれも名誉毀損や名誉感情の侵害は認められない。

 
以上のように、原告敗訴とした判決の理由は、納得できない部分が多くあります。
特に都立大学に関係する部分は、上記に要約したもの以外の発言に関する判決理由を含め、裁判所の理解が不十分すぎると思われます。
この判決の内容に納得できない部分があれば、控訴することができます。控訴申立の期限は、12月28日です。原告の皆さんは、それまでに、判決文をよくお読みいただき、ご検討ください。


2007年7月23日 弁論準備手続の報告

いよいよ原告本人尋問です!

・東京地裁民事第1部の裁判官室に、原告・被告石原・被告東京都の代理人が集まり、約15分、協議をしました。

・裁判長から、今後希望する証拠調べの予定について質問され、原告からは、前回出したとおり、ベルカンヌさんと菅野賢治さんの原告2人の原告本人尋問を行ないたいと希望しました。

・これに対して、被告側は特に意見はないとのことで、裁判長はこれを受けて、この2人の本人尋問を行なうことを決定しました。
 尋問は、9月21日(金)午後1時半から2時半までの1時間です。2人それぞれに対し、主尋問(原告の弁護士からの質問)が15分、反対尋問(被告側の弁護士からの質問)が約10〜15分、という配分です。主尋問時間は、当方の希望どおりです。この種の訴訟では、本人尋問が認められないことも多いので、弁護団は懸念を持っていましたが、もめることもなく、すんなりと決まりました。

・これまで、ほぼ毎回、「意見陳述」という形で原告の意見や心情を話してきています。ですから、判決に是非反映してもらいたい内容を、ポイントを絞って聞くことになります。

・9月21日のこの尋問が終わると結審して審理は終わり、1〜2ヶ月後に判決が出されることになります。裁判所に良い判決を書いて欲しいという私たちの意気込みを伝えるために、できるだけ多くの方に傍聴していただきたいと思います。



2007年6月22日 第12回(国賠訴訟については第2回)口頭弁論

・原告永井克典さんが、意見陳述をしました。

・被告東京都から、6月21日付準備書面(1)が出されました。「これまでの石原被告の主張をそのまま援用する」、というもので、特に都固有の新しい主張は出されませんでした。

・ただし、Tokyo U-club 設立総会での知事発言全文を、この書面に添付してきたので、これに対して裁判所から、元になっている録音テープがあるのか、あるとしたら証拠として提出するつもりはあるのか、と聞かれました。次回に、被告東京都が回答することになります。

・原告からは、6月22日付準備書面(8)を提出しました。被告東京都の主張に対して、当方も、「これまでの被告石原に対する主張を援用する」ということのほか、前回三浦意見陳述で述べられた「文化の多様性に関するユネスコ世界宣言」を紹介し、本件発言の違法性を判断するに当たっては、この内容を斟酌すべきであるとの主張を追加しました。

・また、東京都が新たな主張を出さないことが明確になったので、この裁判での法律的な主張の整理は終わりに近付いたと考え、原告の主張を裏付けるための「証人申請」を行ないました。弁護団で討議した結果、これまで多人数が意見陳述をしてきているので、申請する証人はベルカンヌさんと菅野賢治さんの2人にしぼりました。ベルカンヌさんは全体について、菅野さんは都立大学の関係で、証言をしていただこうという趣旨です。

・裁判長からは、原告・被告双方がこれ以上主張がないのなら、次回は口頭弁論ではなく、「弁論準備手続」を行ないたいとの意向が出され、原告・被告ともこれを承知しました。証人尋問を行なうかどうか、行なうとしたら誰を聞くかなどが、協議されます。被告側は、おそらく証人調べの必要はないと主張すると思われます。

・この「準備手続」は公開の法廷ではなく、傍聴人なしで、当事者と代理人だけで行なわれます。原告なら当然出席できるのですが、部屋が小さいため、原告の数が多いと全員入ることができません。ベルカンヌさんのほか1〜2名程度になると思います。部屋に入っていただけない方は、廊下でお待ちいただき、終了後に内容を報告することにさせてください。

・以上の経過なので、東京都への新しい訴訟を追加しましたが、裁判の進行は大きく遅れることなく進みそうです。

次回の期日は、7月23日(月)午前11時40分から、場所は東京地裁11階民事第1部書記官室です。

以上


2007年3月19日 【新規提訴ならびに記者会見の報告】


1 本日3月19日、東京地方裁判所に、東京都を被告とした国家賠償等請求訴訟を出しました。原告は、合計74名。「民事第7部」になりましたが、同時に、これまでの裁判を審理している「民事第1部」に移してくれるよう、「上申書」を出してあります【3月23日、「民事第1部」への併合が認められました】

2 訴提起後、東京地裁内にある司法記者クラブで、記者会見を行ないました(午後2時から2時半まで)。

 ・参加者は、原告からマリック・ベルカンヌほか7名、ならびに酒井主任弁護士(原告の方々は会見席に座りきれず、後ろにも並んでいただきました)。
 ・テレビカメラ4台、参加の記者は約20名。
 ・これまでの裁判の経過を説明し、石原知事が、昨年10月から「公式発言であった」と態度を豹変したこと、原告としては、「当事者違いで敗訴」というリスクを避けるために、東京都を被告とする裁判を出さざるを得なくなってしまったことを説明。都民の税金から慰謝料を払ってもらうのは本意ではないので、慰謝料額はこれまでの10分の1の1人5万円としたこと、謝罪広告は、新聞広告ではなく費用のかからない東京都のホームページへの掲載を求めることにしたこと、「公式発言である」ということであれば原告になりたいという方が大きく増えたことなどを説明しました。

3 次回の裁判は4月13日(火)午前11時からです。もしこの新しい訴訟の第1回も同時に行なわれることになれば、これをテーマにした意見陳述を行なうことになります。

以上



2006年12月22日 第9回口頭弁論

  1 原告から、準備書面7を出しました。内容は「@被告による自白(個人的発言であることを認めたこと)の撤回は許されない、A被告の陳述の撤回は、時機に遅れたものであり、また信義誠実の原則にも反するので、却下されるべきである、B公的立場による発言であったとしても、不法行為による個人的責任追及が認められるべきである。」

  2 被告からも準備書面5が出されました。フランス語に関する発言は個人的な評価・見解であるが、都立大学のフランス語履修者の数などに関する発言は、都政と密接に関連するもので、公務を行なうにあたってなされたものである、というもの。

  3 裁判長から被告に対して、再度、和解による解決は考えられないか打診がされました。「被告を東京都にまで広げるようなことはせず、石原氏が個人的に非を認めたらどうか」という趣旨だと、理解されます。しかし、被告代理人は、その可能性はないと、拒否しました。

  4 裁判長から原告に、東京都に対して「訴訟告知」するなどして、この訴訟に加わってもらうことにするか、検討して欲しいとの希望が述べられました。原告からは、訴訟告知とするか、新たな裁判を提起するかも含め、検討することを約束しました。

  5 次回の裁判は、2月2日(金)1時15分からです。次回も、裁判の進め方中心の議論になり、原告の意見陳述はありません。

 ◎次回までに弁護団会議を開き、4の問題について検討し、その結果をお知らせします。

   なお、去る11月10日に開かれた「抗議する会 原告・賛同者・弁護団の集い」では、現在の訴訟だけでは『当事者違い』で門前払いなどというリスクがあるなら、東京都相手に新しい訴訟を出そう、という方向で一致しています。



2006年10月27日 第8回口頭弁論


この裁判は、石原知事「個人」に対して起こしています。
この点については、第2回目の裁判で、裁判長から被告に「東京都知事であるが、これは都の代表者としての発言か、個人的な発言ということで良いのか?」との質問がありました。

被告は3回目の2月3日の裁判で、「これは個人としての発言である」と明言し、書面でも「都政とは全く関係のない事柄で個人的発言」と明記していました。

ところが、それから9ヶ月近くたった今回の裁判で、突然「公務員たる都知事としての職務を行うにあたってなされたもの」と、主張を「訂正」してきました。「都知事としての発言」ということになると、訴訟は東京都に対する「国家賠償訴訟」となり、賠償金や謝罪広告の費用は、都民の税金から支払われるということになります。訴訟は「出し直し」をしなければなりません。

裁判長からは、「こんなことがないようにと(訴訟が進んでからこんなことを言い出すと、手続が無駄になるので)、最初の段階で念を押したのです。それなのに、前の主張を撤回するのですか」と半ばあきれながら念を押しましたが、被告は訂正するとのこと。

このように、訴訟の途中で前言をひるがえしたり、訴訟終盤になってから新しい「言い分」をだすのは、フェアとは言えません。一定の場合、これは許されないことがあります。

原告は、「許されない場合」に当たるかどうか、次回まで反論することになりました。法律論としては、「許されない自白の撤回であるか」「時機に遅れた抗弁であるか」という論点となります。

今更この時機に及んでこんな主張を出してきた被告に、出席した原告は、あきれ、憤っています。
しかし、場合によっては、東京都を相手に、訴訟の出し直しを検討せざるをえないかもしれません。

11月10日(金)午後7時から、原告団会議が開かれる予定です。
ここで、詳しくご説明し、方針について相談することになりますので、是非ご参加下
さい。

それにしても、このような「個人責任のがれ」に走ってきた石原都知事、この訴訟で、「追いつめられてきている」という危機感を持ち始めたことの表れかと、弁護団では話しているところです。



2006年9月15日 第7回口頭弁論

2006年8月3日付の被告の準備書面が法廷に提出されました。これは、原告が前回の口頭弁論で準備書面を出して行った「求釈明」(被告の答弁の不明確な所を指摘し、明確にするように求めたもの)への回答です。その内容は、

・「数を勘定できない言葉」と言ったのは、「フランス語の数字の数え方の特殊性に対する誇張した評価に過ぎない」
・「東京都立大学にはフランス語の先生が8人いて受講者が1人もいない」と言ったのは、「フランス語講座においては、教員数と学生数がアンバランスなほどに履修者が少ない」という意味だ。

といったものです。

そこで、さらに原告から、事前に反論を出しました(2006年9月8日付準備書面)。その中で原告側は、石原知事の発言は被告が反論するような「評価」ではなく、「鶏はその羽を使って飛ぶことができない」と同様の「事実」を適示したものであったと反論しています。

裁判所から被告に対しては、「原告からの求釈明に関して、発言をしたこと自体を否定しないなら、単に『発言はしたが、それで原告の名誉は毀損されていない』という主張だけをするのか、さらに『発言内容は真実であるから、発言は違法とは言えない』という主張までするのか、明らかにするように」と求められました。

被告は、10月16日までに、この裁判所からの質問と、首都大学東京設置の背景について、書面を出すことになっています。