東京都知事、現代美術を腹にすえかね

カルチエ財団、展覧会の開会式でとんだ「とばっちり」

東京特派員ミシェル・テマン

2006年4月24日 リベラシオン

木曜〔4月20日〕、午後6時過ぎ、東京都現代美術館(MOT)――10年前、木場公園に建設された巨大な建物――の大ホールに、各界の著名人を含む1500人の人々が招かれ、この春もっとも注目される文化イベントの開幕セレモニーが行われた。1年前からパリと東京のカルチエ社スタッフが準備を進めてきた「カルチエ財団所蔵現代美術コレクション」の会場が、ついにその門扉を開け放とうとしていたのである。門扉といっても、ただの門ではない。入り口は高さ5メール、スライド式の巨大な壁でできており、招待客らはそこを通って一般公開前の会場内に導かれるのだ。4つのフロアにわたって19室を占める展示場は、まるで迷宮のよう。美術館の建物がそっくり芸術の宮殿に変身し、現代美術の偉業に捧げられた趣である。

「彼は酔っぱらってるのか?」――普通、日本の式典は、ありがたいお言葉をもって華やかに開会を告げる。この日、開会の式辞の栄に浴したのは、炎と燃える(そして炎を燃やしたがる)東京都知事、石原慎太郎、73歳である。彼の隣には、カルチエ・インターナショナル会長ベルナール・フォルナス、東京都現代美術館館長・氏家齊一郎、カルチエ財団理事エルヴェ・シャンデスも顔をそろえている。会場のざわめきが徐々に静まる。しかし、石原は何も事前の準備をしていなかった。マイクを手に、正面の巨大スクリーンを見据えながら(そこには、硫黄質の雲、ボンデージ・アートの作品、暗殺された写真家アレール・ゴメスによる裸体などが映し出されている)、石原は、いくぶん口ごもりながら、いつもながらの歯に衣着せぬ言辞を繰り出した。

「都知事は酔っぱらってるのか?」――彼の最初の数語に「ショックを受けた」ある日本の有名スタイリストが首をかしげる。実のところ、東京都知事は、フロアの招待客たちを前にして、いつもながらのお家芸を披露してみせたにすぎなかったのだ。彼はすべてをぶち壊しにしてやろうと考えた。手加減などまったく抜きにして、彼は現代美術をこき下ろし、愚かしくもそれを西洋芸術だけの専売品のごとく描き出してみせるのだった。招待客に背を向けて話す尊大無礼、決めつけの口調と難解を装った語彙をもって、石原は、展覧会そのものをこっぴどくやっつける。たった今、案内付きで鑑賞してきたばかりの展示がよほど退屈だったのだろう。「今日ここに来て、なにかすごいものが見られるんだろうと思っていました。ところが、実際は何も見るべきものはなかった。」イヤホーンで同時通訳を聴きながら、ベルナール・フォルナスはぐっと息をこらえる。

しかし、東京において、これだけの作家を一堂に集めた現代美術展は過去に例を見ないことであった。コンゴのシェリ・サンバからフランスのジャン=ミシェル・オトニエルまで、アイルランドのジェームズ・コールマンからアメリカのデニス・オッペンハイムまで、イタリアのアレッサンドロ・メンディーニからアメリカ女性作家ライザ・ルーまで、12カ国から32人の作家たちが出品している。ライザ・ルーなどは、今回の企画を「芸術の国連」と評しているほどだ。カルチエ財団が20年前から収集にいそしんできた芸術作品のすべてが、空路、海路、気の遠くなるような取り扱い注意の気配りとともに、今回、ようやく東京に結集させられたのだったが・・・・・・。

札付きのナショナリスト――こうした文化の財宝も、石原慎太郎のお眼鏡にはまったく適わなかったらしい。「ここに展示されている現代美術は、まったくもって笑止千万なものである」と彼は付け加える。たとえば、先頃パリで人々の注目を集めたオーストラリアのロン・ミュエクによる巨大な彫刻作品「ベッドのなかで」も、石原には揶揄の対象だ。「ベッドのなかの巨大な母親像は、まるで赤ん坊のような目をしている。」ほかならぬ、この作品こそは、展覧会のポスターとカタログの表紙にも選ばれた目玉作品なのだ。

常々、ナショナリズムと朝鮮・中国への敵視の言説で知られる石原は(2004年にはフランス語をも痛罵した)、1999年以来、東京都知事をつとめる元・人気小説家である(1955年、日本のゴンクール賞に当たる芥川賞を受賞)。みずから余暇には絵を描いて過ごすというが、末っ子〔石原延啓〕とは仲違いしており、そしてその末っ子というのが、これまた折悪しく画家なのである。ここぞとばかりに彼が述べるところによれば、「見る者に説明を要する現代美術というのは無に等しい。」そして、最後のとどめのように、「日本の文化は西洋文化よりもよほど美しい。」会場内には衝撃が走った。一部には、これを冗談と受けとめ、笑い声を上げる人もいる。しかし、多くの人々は憤慨をあらわにした。

席に戻って天井ばかりを凝視している東京都知事に続いて挨拶に立ったのは、ベルナール・フォルナスである。彼は、一転して、今回の出展作家たちにさかんな讃辞を送った。挨拶のなかでフォルナスが、ジャン=ミシェル・アルベローラ、松井えり奈といった画家たちから、森山大道といった写真家まで、東京都現代美術館に展示されている作品を「重要な傑作」と評するにおよんで、会場から一斉に拍手喝采が巻き起こる。こうして、石原の主張も宙に浮いた格好となる。

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