2005年8月25日 ベルカンヌ氏がフランス外務大臣ドゥスト=ブラジー氏に宛てた手紙




マリック・ベルカンヌ
クラス・ド・フランセ
東京都港区赤坂8-4-2 2F
日本

フランス外務省
オルセー河岸37番
75007 パリ
フランス

2005年8月12日、東京にて

趣意:東京都知事によるフランス語発言について

フランス共和国外務大臣ドゥスト=ブラジー様

大臣閣下

以下の書面をもちまして、昨年10月、東京都知事、石原慎太郎氏が公的な場で行ったフランス語に対するきわめて侮辱的な発言について、閣下のご注意を喚起いたしますことをお許し下さい。われらがフランス語に対してなされた、この先に例をみない発言は、すべてのフランス語使用者にとって屈辱的であるにとどまらず、その侮蔑的な内容をもって、フランスの国益そのものを侵害するものであると考えます。

事実関係をご説明いたしましょう。2004年10月19日、東京都知事、石原慎太郎氏は、The Tokyo-U club の設立総会の場において、数百名の聴衆ならびにテレビ・カメラを前にして、以下の発言を行いました。「フランス語は数を勘定できない言葉だから国際語として失格しているのも、むべなるかなという気がする。そういうものにしがみついている手合いが〔東京都立大学の廃止と新大学の設立に――引用者註〕反対のための反対をしている。笑止千万だ。」

この発言をうけて、日本の何人かのフランス語教員が抗議行動を起こし、この問題について在日フランス代表機関の注意を喚起しようといたしました。その際、教員たちは一通の抗議文を作成し、在日フランス大使閣下にも電子メールにて送付しました。残念なことに、この時、フランス大使館文化部の側からの反応はいっさい得られず、結局、外国人排斥主義の暴言を繰り返してやまないこの反動的都知事による公式発言に抗議の声を上げる者は、その教員グループを除いて、ただの一人もいない、というのが実状でした。

私は、日本で22年前からフランス語を教え、16年前から現在のフランス語学校を経営している者ですが、東京都知事の発言の内容を知った時には、それがいかにしても承伏しがたいものに思えました。そして、一人のフランス人の義務として、この侮辱発言になんらかの仕方で反応せねばならないと考えました。それは、ほかでもありません。本来ならばその仕事を引き受けてしかるべき人々に、意思表示を行おうとする気配がまったく見られなかったからです。手始めに、私は、日本国内外に向けた署名活動を立ち上げました。同時に、弁護士に依頼して石原氏宛の公開状を日本語で作成し、その中で、上記の妄言を撤回して謝罪するか、さもなくば発言の正当性をわれわれに証明してみせるよう、石原氏に求めました。この公開状は、2005年2月25日、石原氏に送付されました。そして、この活動に支持の意向を表明してくださっていたすべてのフランス語使用者の方々にも、われわれの意図を知っておいていただくため、公開状のフランス語訳を作成し、その翻訳証明を領事館に依頼しました。領事館による証明は、常ならぬ有為転変の末にようやく取得することができました(添付書類:2005年7月5日付、在日フランス大使館文化参事官宛の手紙をご参照ください)。フランス語訳も完成し、翻訳証明も得られましたので、われわれは、2005年4月5日、「抗議する会」のインターネット・サイトに公開状を掲載しました。以来、公開状は、下記のサイトですべての人々に見ていただくことができるようになっております。(www.classes-de-francais.com/ishihara).

公開状のなかで指定した日付までに東京都知事からの返答が得られませんでしたので、われわれは、弁護団との協議の上、この係争を日本の司法の場に持ち込むことを決意いたしました。提訴は、2005年7月13日のことです。提訴直後に記者会見が行われ、このニュースは各社のテレビ放送、新聞・雑誌の紙面をつうじて広く報道されました。

前後いたしますが、それに先立つ2005年7月6日、われわれは、文化参事官ムキエリ氏の要請をうけてフランス大使館に赴き、言語担当官もまじえて会談の席を持ちました。しかし、これはほとんど実りなきものであったといわざるを得ません。席上、ムキエリ氏は、幾度にもわたって氏の「職責上の義務」に言及なさっただけでした(添付書類:2005年7月28日付、文化参事官宛の手紙をご覧ください)。この会談ののち、提訴の運びとなりましたが、その後、私は、日本におけるフランス国の代表機関が完全なる不動の姿勢を保っていることに疑義の念を抑えきれませんでしたので、7月28日、文化参事官宛に配達証明付きの書留便で一通の手紙をお送りしました。参事官は、夏期休暇に入る直前でいらっしゃいましたが、その手紙を読み、補佐のパヴィヨン夫人に私と電話で話をするよう言い残して休暇をお取りになったといいます。

パヴィヨン夫人との電話での会話をつうじて、私は、大使館は今回の一件を問題として採り上げるつもりがないのだ、ということを思い知らされました。大臣閣下、私が今ここに、閣下に直接お手紙を差し上げますのも、まさにそのためなのです。今回の訴訟を支援してくださっている方々――世界各地で、日々、数を増し続けております――を代表して、私は、フランス国が東京都知事に謝罪を求め、そしてそれを実際に引き出すために、一体いかなる方策を講じようとしているのか、ぜひとも知っておかなくてはなりません。

われわれといたしましては、日本におけるフランス外交代表機関がわれわれの活動を支援するよう、また、なんらかの公式見解を打ち出すよう、閣下の側から指示が下されることを切に願っております。ここには、フランスの名誉が賭されているのです。

敬具

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